患者さんと私たちの物語②― 合わない入れ歯を何年も使い続けたことで現れた“口の動き”
きっかけは「口をぱくぱく動かすようになった」というご相談
今月出会ったのは、80代の男性の患者さん。
車いすで何年も在宅介護を受けておられ、長年お世話になっていた近くの歯科医院の先生が亡くなられてからは、新しい歯医者に行くことも難しくなっていました。
「最近、父が口をぱくぱく動かすんです」
と、ご家族が内科の訪問医に相談されたのがきっかけで、ルアナ歯科訪問部へご紹介いただきました。
合わない入れ歯がもたらす“無意識の動き”
拝見すると、入れ歯は長年使用しており、歯ぐきの形に合わず、バネをかけていた歯は折れて使えない状態であり口の中で常に動いている状態でした。
こうした“合わない義歯”を長期間使用し続けることで、口の周囲や舌の筋肉が無意識に動き続ける「口腔ディスキネジア(orodyskinesia)」が起こることがあります。
入れ歯を安定させようと筋肉が常に緊張しているため、合わない入れ歯を長く使っている方に起きることがあると言われています。
入れ歯の修理や残根の抜歯を行い、新しい入れ歯の作製へ
元の入れ歯でバネをかけていた歯が折れて歯根だけ歯肉に残って腫れている状態でしたので、在宅で抜歯し止血を行いました。
隣の歯に新しい入れ歯のバネをかけようと計画していたところ、大きな虫歯が見つかり治療してから新しい入れ歯を作製することになりました。入れ歯の作製は通常でも2ヶ月ほどかかります。さらに、虫歯の治療となると3ヶ月以上今の入れ歯でなんとか過ごしていただかなくてはなりません。
ここは、急ぐ気持ちを押さえて、まずは今の入れ歯の修理を行い、ある程度使える状態にしてから、虫歯治療・入れ歯の作製へという流れにさせていただきました。
医療チームで支える「お口の整い」
今回のケースでは、内科の訪問医の先生との連携があり、全身の状態と合わせて経過を見守ることができました。
このように、医科と歯科が協力することで、患者さんの生活全体をより安全に支えることができます。
訪問歯科は、単なる“口のケア”ではなく、その人の人生と生活に寄り添う医療です。
まとめ:入れ歯だからといって、放置しないで
入れ歯は“からだの一部”です。
合わないまま使い続けると、痛みや咀嚼の不安定だけでなく、筋肉や表情の変化にもつながります。
「もう新しく作るのは大変だから」「外せばいいだけだから」
そう思って放置してしまう方も少なくありません。
でも、入れ歯だからこそ、定期的なチェックが必要です。
訪問歯科では、お口の状態や入れ歯の適合を確認しながら、快適に使い続けられるようサポートしています。
治るかどうかは、実際に新しい義歯を作ってみないとわかりません。
それでも――
「入れ歯を放置しないで、定期的に点検する」こと。
それが、これからの“整うケア”の第一歩です。



